ホモ・サピエンスの眉骨はネアンデルタール人や、その共通先祖であるホモ・ハイデルベルゲンシスとは違い、低い。頭骸骨で、顔つきもやわらかくなった。その理由を社会的地位や攻撃性に求め、ホモ・ハイデルベルゲンシス~ネアンデルタールそしてホモサピエンスの眉骨変化の理由が、大きくは住環境の変化にあったとする仮説が、この四月に出されている。
ホモ・ハイデルベルゲンシスの頭骨
眉高がしだいに低くなり、表情も柔らかくなってゆくのがわかる。
「変化が大きく表情豊かな現生人類の眉に取って代わられたのではないかとする仮説を示した論文が、今週掲載される。これは、眉弓が頭蓋内で構造的な役割を果たしていたとする従来の仮説からの大転換である」https://www.natureasia.com/ja-jp/natecolevol/pr-highlights/12449
従来人類の眉骨は、食物咀嚼を強力にするために大きく高かったと言われていたが、この仮説では眉骨は、ヒト同志のコミュニケーションを豊かにするための、表情のバラエティを作るためにあって、特に気象の悪化した時代には、声も低くして、敵を威嚇する機能をもっていたが、ホモ・サピエンスでは、住環境のさらなる乾燥化や激化によってよりつどって生き抜く必要があり、それがかえって集団の敵対関係を低下させた。それゆえに威嚇に必要だったいかつく険しい表情を作るのに有効だった高い眉骨の必要性を低下させた。要するに旧人よりも深い社会性を作り出したことが、集団内での殺し合いや暴力を減らしたために、けわしい表情や低い声の必要性をうすめていくことになった。だから現生人類の頭骨はやさしく、小さく、やわらかくなったのだというわけである。
この仮説を論文にしたRicardo Godhinoたちは
「眉弓には物理的な役割ではなく社会的な役割があったのではないかと考え」
「人類の社会性が強まるにつれて眉弓は平板化し、代わりに、視認性と可動性に優れて、感情をさらに細かく柔軟に示すことができる眉の発達が可能になった。」
と結論付けている。
人類誕生とアフリカのグレートリフトバレイ東部の森林における気象環境の変化は、地球規模の話になるが、偏西風の熱波が欧州北部からヒマラヤ山脈に向って吹きすさんだことで、その反射風はアフリカを襲い、サルたちがいた森を枯らしていったことに起因する。
その頃、先行した旧人たちはすでにアフリカを出ていて、その影響を受けなかった。しかし最後に出現したホモ・サピエンスはもろにその影響を受けて大地溝帯の東側へ転げだすように出て行くことになった。もし西側へ出ていればたぶん人類には進化せず、今もアフリカ西部に多いヒヒになっていたかも知れない。東部はいっそう過酷な砂漠化が進んでおり、それは彼らに一層の過酷な旅を強いることとなったが、災いを転じた彼らは、せっぱつまって海を渡り、さらに過酷なアラビア半島に向ってしまう。それがさらに集団がよりそって生きる生き方を選択させることになった。旧人たちのように、肉を求めてきままに狩猟の旅をするのではなく、農業や集団生活を強いたがために、彼らにはほかの旧人が持ち得なかった高い社会性を持つことが可能となったのであろう。
助け合わねば生き残れない、最も過酷な生き方を、彼ら新人たちは、好むと好まざるに関わらず、地球から与えられた。そのために彼らには、適地を捜し求めるフロンティ探検者という性格が身につくようになる。わたしたちの先祖が、地球上のすべての場所に広がった理由はこれだろう。
高い眉骨と低いしわがれ声が旧人の攻撃性の残存を示す?