先日も書きましたように、中橋先生らのご意見では、先年、いったんはネアンデルタール人はクロマニョン以降の現代人類とは血縁的な関係がなかったというmtDNA遺伝子の結論が、遺伝子の核心と言える核DNA分析で逆転し、まあ下世話な言い方ですが「関係を持っていた」ことが白日の下にさらされたことで、篠田さんによって決定的定説になりかかっていた日本人バイカル湖由来説もみなおさねばならない時代が来たことになります。
つまりどうしても核DNA遺伝子分析のサンプルが蓄積するまで、多分、私たちはあと100年ほどは発掘を待たねばならなくなったということでありましょう。振り出しに戻ったということかも知れません。
でも、それはますます、たったひとつとの解答を求める日本人はるかな旅という、想像力豊かなファンタジーがぼくたちにも戻ってきたということでもあろうかと思います。
母方遺伝子では確かにバイカル湖からの遺伝子は、日本人の大半を占める遺伝子であることには変わりはないことです。しかし、遠隔移動の主流はやはり圧倒的に男性世界の手にありましたから、Y遺伝子の拡がりも考え合わせ、かつ人類学による骨や外見や、民俗学や環境学や植物の植生学などなどによる、諸説がこれからまだ当分はぼくたちを楽しませることだと思います。
ぼくたちもひとつの答えを求めすぎていたと反省すべきだと思えます。
それと、これまで紛争地帯であったシリアのパルミラやダマスカスの、今後の発掘可能な平穏な状況を一刻も早く取り戻したり、モンゴル草原のチャンドマン遺跡など、世界の倭人に酷似する遺骨などの縄文人・弥生人との比較考察が再評価されてゆくべきかも知れません。
パルミラで出た女性人骨は扁平で弥生人女性にそっくりでしたし、チャンドマン遺跡の人骨は縄文人との共通性を示しています。
また、中国最南部の柳江人の部位類似性の多くが日本の縄文人と同じパターンを描くのに、華北人とは格差が或ることなど、外周部からのジャブをぼくたちは楽しむしかないでしょう。
さらには、病理学による、悪性プリオン摂取が起きていた地域が、予想以上に世界に多く、それが食人風習を証明付けるものであることなど、中橋さんの分析は多方面で楽しめます。プリオンとは例の狂牛病の原因でも或る脳みそに含まれるたんぱく質ですが、脳を食べない限りそれが感染するはずのない病気であるために、食人があったことの証明になるものだそうです。羊や牛の脳でももちろんそれは発生しますが、ヒトの脳みそはちゃんと区別できるので、証拠品になります。その病気は、狂牛病の牛と同じで、体が自由に動かせなくなって100%死に至るという恐ろしいものですが、それがヤコブ病とかスクレービー(羊脳みそ摂取の病気)とかの言葉でニュースで流されることがあります。欧州や中国では動物の脳みそを食べる風習は今でもグルメ食として認知されています。これが古代ではかなりの割合で食人によっても感染していたようです。