「あたご」地名を再考する。
愛宕山 Atago-Yama は、
京都市右京区嵯峨愛宕町にある。嵯峨野つまり旧葛野郡(右京区)よりかなり北の奥地になる。古代にはここは愛宕(おたぎ)郡になる。
愛宕山を火打石の産地だとするサイトがあるが、愛宕山では火打石は出ない。地質的にないのである。
日本の火打石は「材質としては玉髄、チャート、石英、ジャスパー、サヌカイト、黒曜石、ホルンフェルスなどが用いられた。西ヨーロッパなどでは白亜層や石灰層に産出し、ドーヴァー海峡の両岸などに多数あるフリント型チャートの一種であるフリントを用いたため、欧米の翻訳から始まった考古学や歴史学では火打石=フリントという誤解が生じた。」
探せばどの山の地質にも含まれるだろう成分だが、それが集中してこその産地である。
しかし京都の火打石の産地は旧葛野郡梅ヶ畑町(現在の右京区)や鞍馬山(左京区)でいずれも市内の平地である。いったいどういう根拠でそうなったのだろうか。右京区の梅ヶ畑町が広くは愛宕山の山麓になるからだろう。有名な地名を品名にそえれば商品価値が上がる。いわゆるブランドだったからだ。
火打石の産地一覧http://www.ne.jp/asahi/hiuti/isi/santi/santiitiran.html
及びWiki火打石参照しても愛宕山周辺の嵯峨野の奥地に火打石産地とは書いていない。
葛野の渡月橋から見た愛宕山遠景
京都市内からはるかに遠い。
京都市内からはるかに遠い。
郡名の「おたぎ」とは?
これは平安時代あたりにここが御所から見て陰陽の北西にあるため鬼門であり、季節風の通り道だったので、強風で火事になることを恐れて管理し、樹木を伐採などしていたことがあり、また、平安時代には天皇家に冬場の薪を、中世には薪能のための薪を奉納したために「お・たきぎ」と言われたのが始まりである。
その御薪がなまって「おたぎ郡」になるというのがこれまで一番信憑性がある定説なのだが、しかし愛宕山は「あたご」と読ませ、両者に横訛りの必然性があまり感じられないのが気になってきた。
以前はそれでおさまっていたが、最近、どうもそれでは座りが悪く感じられ始めた。そこで調べた。
過去の自説The Kyoto/ 乾 愛宕・化野・愛宕権現太郎坊のことhttp://blogs.yahoo.co.jp/kawakatu_1205/MYBLOG/yblog.html?m=lc&sv=%B0%A6%C5%E6&sk=0
消防大学の学長などは「あたご」はイザナミ最後の子・カグツチ=火の神が、生まれたために母・イザナミが死んだので、民衆がそれを大風が吹いてくる火事の元だと見ていた愛宕山に名づけた・・・つまり「仇子」からであるという本居宣長「古事記伝」の仮説を紹介している。
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=y95d5Q48nPcJ&p=%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%94+%E8%AA%9E%E6%BA%90&u=www.fdma.go.jp%2Fugoki%2Fh2702%2F2702_03.pdf#search=%27%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%94+%E8%AA%9E%E6%BA%90%27
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=y95d5Q48nPcJ&p=%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%94+%E8%AA%9E%E6%BA%90&u=www.fdma.go.jp%2Fugoki%2Fh2702%2F2702_03.pdf#search=%27%E3%81%82%E3%81%9F%E3%81%94+%E8%AA%9E%E6%BA%90%27
なかなかよい説ではある。
たきぎからの訛りよりも説得力がある。
確かに愛宕神社は火伏せの神として、京都ではどこの町屋にも愛宕山火伏せの魔よけの紙がはってある。
たきぎからの訛りよりも説得力がある。
確かに愛宕神社は火伏せの神として、京都ではどこの町屋にも愛宕山火伏せの魔よけの紙がはってある。
「あだこ」から「あたご」ならなりやすかろう。
しかし同サイトは柳田國男説もあげている。
「一方で、民俗学的には「愛宕」は「背面」もしくは「日隠」の意味を持つ「あて」という場所のイメージから派生したのが語源であるとの説もある」(柳田国男『地名の研究』)
「一方で、民俗学的には「愛宕」は「背面」もしくは「日隠」の意味を持つ「あて」という場所のイメージから派生したのが語源であるとの説もある」(柳田国男『地名の研究』)
そもそも愛宕山は修験のメッカだった。修験者は山頂で火を焚いて星祭(妙見祭祀)する。そこから、修験者が、仏教でも神道でもない、習合ミックス民間信仰としての火押さえの神として全国へ流布させた。そこにはそもそも道教的な風水思想がある。天武天皇が風の湧く山として恐れた、だから木地師を入れて樹木を管理させた、そういう天文遁行の考え方こそは、のちの修験道そのものなのである。
さて、「あた」は「熱海」などにもあるように「熱い」=「火」地名でもある。静岡と神奈川県境の熱海は火山で、温泉地地名である。「あつい」は気温も火も同じアクセントで「あつい」もの。鹿児島の霧島周辺を「阿多 あた」というのも火山があって湯が沸くからだ。
「つ」にアクセントがある「あ・つ・い」で、「厚い」(平坦アクセント)とは概念がまったく違うので同じアクセントで言うのが普通(今のアナウンサーや若い人は熱いと暑いをわざわざ分けて使っているが、あきらかに誤用。どちらも同じアクセントが正しい)。
語幹は「あつ」で、「あ」は感嘆の「あ」、「つ」熱さへのは驚きの撥音便で「っ」、「あっ」から成っている。つまり熱くて驚く様が「あつ」で火や火山への恐れである。では「ご」は何か?「ご」は驚嘆が生み出した語尾ということになる。つまりたいした意味など、古い言葉にはない。縄文や先土器人たちの現日本語だったというのはそんなところである。そこに始まったけれど、やがて意味がいろいろ加わるのも地名である。中には迷信や嘘やジョークまでまざる。そうなると「仇子 あだこ=火の神」はやはりなかなかいい後世の理解の仕方だといえるだろう。
なお北西からの風を古来「戌亥の風」と言う。秋の季節風である。炭焼き風、製鉄(たたら)風、金気の風とも言う。西は金の方位で、南の火つまり朱雀を起こす風になる。この風で大きな火事も起こるが、金=金属精錬のたたらや炭焼きは始まった。春の辰巳の風=蛇の風と対極。
今年は金気の始まりの酉年。諸君、大いに儲かってください。そして大火事にはご注意!
愛宕神社の火伏せの札を貼っておきましょうね。
ついでに上方落語の愛宕山の唄もね。
愛宕山坂 ええ坂 二十五丁目の茶屋の嬶(かか) 婆旦那さんちと休みなんししんしんしん粉でもたんと食べ 食べりゃうんと坂 ヤンレ坂
酉年ゆえか大火や火事のニュースが多いようだ。気をつけられたい。