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Channel: 民族学伝承ひろいあげ辞典
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考古学と人類学と民族学が、ときに小説を書くケース/チャイルドから田中良之まで

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◆形質人類学・骨相学と考古学の出会い
人びとの集まり(Peaple)をゴードン・チャイルド(1892~1957)は考古学的にパターン化できると信じた。

考古学的に同種の文化の分布は、すなわちそこが、その文化の担い手たちが作り上げた居住地だということであり、その人びとは「人種」でもなく、政治的に結びついた「国民」でもまだない、その両極の中間にあるあいまいなPeapleであるというほかはないとチャイルドは論じた。例えば古代ギリシアはアテナイ(アテネ)やスパルタというような都市国家の集合体であるから、古代ギリシア文化の担い手はギリシア人というPeapleであるということができる。

その前提として、そこの文化とは「共存諸形式の常時的組み合わせ」と定義づけた。

これを日本の考古学に当てはめるならば、銅鐸は弥生時代の土器としか共に出土せず、古墳からは出土しない。「三角縁」神獣鏡は古墳からしか発見されず、弥生墳丘墓からは出てこない(弥生墓で出るのは「斜縁」「平縁」などの正式漢鏡である)。

つまり特定の遺物は、常時、どの遺物・遺跡の人びとが使ったかというパターンがあるということに気づく。これをチャイルドは「文化」と規定した。

さらにこのパターンとは、編年よりも分布によって分類できるともした。同じ弥生式土器は北海道や沖縄には存在しない。ゆえに弥生式土器の時代が弥生時代であり、縄文時代と古墳時代を編年的に分けているが、同時に、日本列島の本土に限った分布単位でもあるということである。文化はある時代のブームということもさることながら、どの地域に共通するものかのほうが、Peapuleの本体を推測するに至便であると。

しかし、この論にも「絶対」とはいえない盲点は存在する。英国人考古学者・イアン=ホダ-は、東アフリカのケニアのバリンゴ地方に住む3つの部族を研究し、どのような武器、道具を使っているかを、民族学的に調査した。その結果、3つの部族の違いは、武器や道具では区別できないという結論に達した。

どんなことにも例外はある。バリンゴの3つの部族間では、道具や武器を共有、あるいは戦いのあとで拾った相手の武器なども、そのまま共有、使用するのであろう。考えてみれば、そんなことは日本の戦国時代でもあることだろう。道具や武器が貴重品であり、数が少ないのならば、当然、敵のものであろうと利用するほうが経済的にも効率がいい。まして、戦って感じ取った、相手の強さに比例して、こちらでは道具や武器に憧れを持っておかしくない。それがきっかけでいくさもへるほどに2つの部族が仲良く共生を始める場合もある。

前の記事も合わせて、これが民族学による「考古学の補完」である。

考古学は人類学でも補完されねばならない。
それが人骨の分析である。

日本では、近年、特に顎骨の分析から、無文字時代での血縁関係を探ることが可能となっている。土肥直美・田中良之・船越公威は1986年に、人間の第一小臼歯と第二小臼歯の距離(歯冠計測値※)が血縁関係にある人同士では、近い数値になることに着目。ひとつの集団墓に埋葬された人びとや、同一古墳に埋葬された複数の人びとの血縁関係を明らかにすることに成功した。
 
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それまで、考古学では、埋葬の向き(頭位)や棺の様式、あるいは古墳の様式、などなどから必死にまさぐろうとしてきたが、人類学的なこの手法や、のちに遺伝子学のような犯罪捜査にも使われる鑑識手法が、客観的で反論しがたい結論を導くようになった。

福岡県の甕棺墓は、ほぼ直線状に二列に並んで配置される※。かつて春成秀爾(はるなり・ひでじ 考古学)はこの二列は出自の違いで分けられたと考えた。ひとつの列がひとつの出自氏族であり、もうひとつの列は別氏族としたのである。この列の顎骨を調べると、もし春成の説が正しければ、近似値が一列で出なければならない。しかしそうではなかった。近似値をもつ骨は、二列どちらにも混じっていたのである。ただし、ではこの二列にはどんな差異があったかはまだ、明確化されてはいない。同族間に、二種のなんらかの差異があった。区別されたとしてもいいかどうかすら、実は不明である。単純に家族を考えれば「父方・母方」か?とかさまざま考えられるだろう。あるいはもっとここが存続していたら、二列は三列に増えたかもしれず、そうならば、一列の長さに決まりがあったとか、単なる繁栄して人数が増えていっただけだからかも知れないのである。
 
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※甕棺列埋葬[静止画/400×600ピクセル/156KB]
甕棺墓は数十基から数百基の単位で見つかることが多い。甕棺墓群は列状のものと固まりのものがある。列状の甕棺墓は600m程度の長さに作られる場合があり、この列埋葬の間は通路(写真中央)として使われていたようである。(写真提供:佐賀県教育委員会)
関連資料: 英語説明文と日本語訳
 
 
 

このように、考古学でも、ほかの科学の補完があっても、古代はいまだに多大な謎の山に埋もれている。偶然の発見があとに続き、そこに答えがあるかも知れないのである。

田中良之は1995年に、古墳の調査から、複数人骨が出土する古墳人骨の血縁関係を調査して、ある定型パターンがあると論じた※。

基本モデルⅠ   弥生時代~5世紀末では、男女の兄弟・姉妹・男女兄弟はひとつの墓に葬る。(兄弟葬)
基本モデルⅡ   5世紀後半~6世紀後半には、成人男性とその子供がひとつの墓に(親子合葬)
基本モデルⅢ   6世紀中葉~後半以降は、これらのパターンに成人女性が加えられる(家族葬)
 
※この田中の調査は岡山県以西に限っていたが、のちに清家章は同様の結果を、近畿地方の古墳からも得ている。
 

例外がまったくなしとは言えまいが、つまりこれはその時代を実に雄弁に語る資料となる。

まず、弥生時代~5世紀末の墓制度は基本的に兄弟葬で、同じだったことがわかる。これは西日本の弥生時代人と古墳時代人の間に、重大な葬儀観念、祭祀観念に差がない、もっと言えばほぼ同じ文化の持ち主だったとさえ言えることを示している。
 
ところが、その後、この「追葬」風習は、次第に子供へ移り、そして妻も、となった。
 
民「俗」学的に、それは「祖霊」観念の変化を示すある変化を、補完する資料となる可能性がある。最初は中国南部の神仙思想にもある死者の霊魂の再生信仰から、次第に子どもの霊魂が天に昇り、祖霊と合体して戻ってくる、といった、いわゆる再生観念の変化でとらえる方法。

いまひとつは、古代王制の変化にも関与するだろう、最初は兄弟順に長となるのが、やがて王の子供、嫡子継嗣への世襲へと変わっていくことにもなにか関わる可能性もある結果である。

男女合葬は、しかし妻と言うよりも、彦ヒメ制の関係であることも考えられ、兄と妹、あるいは姉と弟王・・・とも考えられる。
 
これも民族学では、洪水神話※にみられる兄妹近親婚始祖伝承も考え付く。
 
 
 
 
考古学だけでは無味乾燥な事実の積み重ねも、ずいぶん主観性や物語性の肉付けがされていくのである。

あたかも、話に尾ひれがついていく間に、「かっぱのミイラ」に爪や牙が生えてしまうような、そういう小説化が実は昔の科学には多い、筆者はそう言いたかったのである。それが例えば、黒田官兵衛が荒木村重の牢に入れられている間に、竹中半兵衛が黒田の子供をかくまったとか、まるで『三国志』の諸葛孔明(こうめい)と司馬仲達(ちゅうたつ)のお話のような挿入や、あるいは半兵衛が軍師として「軍配」を持っていたというような創作が入ってゆく・・・つまり軍記・物語特有の「芝居がかる」表現で涙を誘う部分に、非常によく似ているとも言えよう。
 
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孔明の「羽扇」は軍配の原型
 

科学でもよくこういう「ないもの」が「あります!」になってしまうことは起こりえる。
 
 
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人が何を言おうと、どう利用されようと、あるなら何十年かかっても証明して見せるのが科学者の使命だろう。そういうリベンジに人々は多大な夢を持って待っている。
 
 
 
なぜなら、発掘するものにも主観があり、そうでなかったにしても、見る側、聞く側、報道する側には、そうした主観的・恣意的決定論調が大好きな、「脳内物語創作欲」ばかり発達したものが、実は多々存在するからではないかと、筆者は見ている。個人的「たま出版」的人物は、けっこうしろうとに指示されたりするので困り者であるし、小林大明神先学のように、「俺がルールブックだ」的学者だってかつてはちゃんと存在した。こういうのはみな「捏造」の仲間であり、やはり考古学が邪馬台国をかってに日本地図を逆さまにしてしまうようなこおとを言い出しては絶対ならないのである。なぜって、考古学は科学なんでしょう?
 
 
 
 
 
 
 
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