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Channel: 民族学伝承ひろいあげ辞典
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柳田國男はなぜ民俗学をやめたか

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理由は二つあるだろう。
彼は高級官僚だった。
そして彼は家族を持っていた。


柳田の始めた民俗学は、被差別を冷徹に分析しつつも、いつも被差別を敬愛し、うらやむ自由人だととらえるところにあった。しかしいつの時代も、そのことそのものをとりあげることを、当事者は嫌う。殺されかねないことを書いていたら、言霊が作用した時代に、彼が家族を思い、いや、事実は自分自身の命すらあやういことに気づかなかったはずはない。

官僚には絶対に、許されないはずのことを、柳田は最初から描きたかったわけではない。分析するほどにそれしか考えられない・・・それこそが「敗者の古代史」を整合的に語れる「数学的論理」だったのであろう。しかし、客観は常に主観の渦の前では無力であった。理屈は通らない世界・・・異界の手が忍び寄る。


弟子である折口が登場したとき、柳田は才気煥発にして、恐れを知らずに済むこの弟子にすべて託したのであろう。世界の深遠を垣間見る能力がありながら、時代の常識人でもあらねばならなかった柳田にはそうするしかなかったのは当然である。


あなたはでは、この当時の柳田の「転換」を、変節した、ぶれた、と石を投げつけることができるだろうか?そもそも、被差別の中にある歴史の真実に気づいたときに、柳田は官僚も、家族も捨て、研究にまい進すべきだったのだ・・・と、例えば生きている彼自身にはっきり言えるだろうか?

それほどに、ひとりの人間を責めつけるほどの、人間と言う流されて生きるしかない存在のあなたに、明日はわが身だと思う想像力や優しさがないのなら、それはこの稀有な博学を地獄にいくしかなくすることだろう。

民俗学が、この国の自然科学や分析しようとする科学に与えたヒントはあまりに大きい。遠野の妖怪にせよ、それらがみな、敗者から生まれでてくる在地の反駁から生まれた、静やかなレジスタンスの表現方法だったことに、気がつけるためのヒントである。




呪(じゅ)という観念を、ただ一面でとらえて、それは恨(はん・こん)だけであろうと、人はよく間違える。往古、「呪」は恨みではない。それは怨念でもあったが、のろいでもあったが、実は「願い」であった。例えば真言は一種の呪文である。呪を負の一面だけでとらえたら、敗者の願いは、古代史は、絶対に見えてこない。

「のろう」という日本語の、おどろおどろしき情念だけを見ていたら、決して人の生き様の複雑さには気づかない。「のろ」は琉球では巫女である。巫女のなりわいは、呪うことにはない。むしろはかない願いの成就に彼女たちは存在する。

「のろま」という言葉には、まぬけな、馬鹿真面目で頭が悪いというほかに、彼らをほのぼのと許容する、愛すべき人という反面も存在する。





呪師や御師や修験者やを、厄を払ってくれる指導者と仰ぐ人も確かに存在した。
人は「せんない生き物」である。


極から極へと、人は簡単にものごとをとらえようとする。しかし、その人にも、また、表裏の人生はある。西洋の魔術に白黒があったように、日本の呪にも表裏があった。





熊野信仰や弥勒信仰、あるいは白山信仰やには、

この世をば憂しとぞ想ふ 人々を救う呪力があった。




私はいま、このブログをすべて削除してしまおうという気持ちが生まれている。
呪がのろうばかりの世の中に、今まさにりょうけんの狭い偏った世界に変わろうとしているからだ。人はそもそも、脊椎動物の祖先たちが、破壊的なけだものから隠れるところから、彼らとは別の進化のノウハウを見つけ出し生き残ったずる賢くも切ないクリーチャーなのだと(決して万物の霊長などではなかった)ことに気が付くべきである。弱者だったからこそ脳を成長させた敗者一歩手前の存在だった。そもそもは、正統ではない、消えるべき生命体、絶滅危惧者だったにほかならない。厳寒の氷河期を、彼等はだから生き残る。


そこに呪がなかったはずがない。



柳田國男は、そうした、人類の生き残りのための創意工夫を、被差別にこそ見出したのである。




そこに野性の生き様を見たのである。それまで、ここに気がついた人間は、彼しかいなかった。そうした意味で、柳田は人間の生きるの根底に行き着いた明治の杉原千畝だったと筆者は思っている。



このブログを自分がこのまま続けていいかどうか、筆者には判断できかねている。私は平成の柳田になればいいのか、あるいは杉原になればいいのか、それとも、もう無名の隠遁者になったほうがいいのかが、わからないでいる。時代が変わってゆく。
























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