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Channel: 民族学伝承ひろいあげ辞典
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ウルクの大杯と大地母神イナンナと対面する祭祀王エン ネットスカートの男

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メソポタミア、ウルクから発見された「ウルクの大杯」は、巨大な土器の壷(ワルカの壷とも言う)で、その周囲一面にさまざまの当時の人々の生活と信仰に関わる絵柄が刻まれている人類史上最古級の貴重な遺物である。しかし、原理主義者によってそれらの重要な遺物は壊され、持ち去られてしまった。紀元前3000年頃、シュメールのジェムデト・ナスル期。
高さ1.10m、石灰岩製。


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この坪には、最下段にティグリス・ユーフラテスを現す波型が描かれる。



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その沿岸には最古の栽培植物・主食となる大麦(六条大麦)と亜麻(リンネル)が描かれる。亜麻はこれまでナツメヤシであるとされてきたが、最近の調査で、当時の人々の衣服を編んだ素材である亜麻であることがわかった。つまりこれが彼らの一般的住民の衣食を表すものであることがわかる。

その真上には遊牧動物である羊が雄雌交互に並ぶ。これも食、そして雌雄による生殖と繁栄の印であるとされる。メソポタミアの肥沃な低地を、彼らは羊を遊牧しはじめた最初の人々であり、羊こそは繊維、羊皮紙、肉、角杯などなどあらゆる欧米文化を形作ることとなる西欧文化・キリスト教文化、中東文化、ユダヤ文化の基本的アイテムであり、信仰の大元である。キリスト教で悪魔の姿がヤギであったり、牧神パンの姿であったりするのも、羊が大元である。キリスト教がそれら中東の聖なる生き物を悪魔に仮託する理由は、もちろんアレキサンダーの侵略からであり、中東の聖なる存在を野獣・悪魔として差別したからにほかならない。欧州人たちは、自分たちよりずっと古い文化文明を差別し、侵略することでおのれの古めかしい原始的信仰しかないことを覆い隠そうとしたのであろう。そしてちゃっかり自分たちを上回る彼らのよいところだけは取り込み、自らの文化水準の高さを別の世界へ示したのである。

異文化、異教徒を彼らが奪い取る理由は、すでに書いた。南欧州には北方から多くの異民族が入り込み先住民であった北欧民族を追い出した。彼らが南欧や英国に逃げ込んだために、既成の南欧文化と人種構成は混乱。それをかわすためにもっと違う民族を敵性国家としてクローズアップする。それが十字軍遠征である。


さて、ウルクの大杯の下から三段目には神への供物を運ぶ奴婢たちが描かれ、その上には奴婢を支配した上流階級が描かれ、奴婢の運んだ供物を壇上の神とおぼしきものへ渡す司祭王が描かれる。つまりこの大杯に描かれているのは、シュメール人の階級構成と衣食住と祭祀形態のすべてである。

川の神が恵んでくれる水により大麦や亜麻を栽培し、それを農奴が租税として王へ献上し、王はそれを神へささげる。いずこも同じ原始信仰のありさまであるが、それが4~5000年前にすでに始まっていることも大事だ。日本では王の登場も様式化された祭祀と統一神の登場も紀元後の古墳時代頃に始まるのだから、文化の始まりの時間枠がそれだけ隔絶して遅いのだ。そこを無視してはならない。

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最上段に奇妙な形状の棒が二本立っており、真横から描いているのでわかりにくいが、くるりと巻いて後ろへ垂れ下がる幕のようなものが描かれている。その前に立つ神は女神である。これをイナンナ神という。

イナンナ神については女神なのか男神なのかで論争もあるが、まず女神であろう。これは世界で災害の神が女性だということが多いことで間違いあるまい。やがて災害神は太陽神・大地母などの祖霊の根源神と合体し、表裏一体の夫婦神と変化する場合が多いが、それは中国でもそうで、要するに地球自然の生業が表裏一体で、よいことも悪いことも引き起こすという哲学が生む共通性であろう。日本なら災害神スサノヲと太陽神アマテラスは実は表裏一体の自然の摂理である。中国の西王母・東王夫もそうだし、その前の伏儀と女禍もそうである。

そういうところからイナンナ神も雌雄同体の大地母神だと筆者は理解している。
そして彼女は太陽神でもあり、川の神でもあるだろう。すると後ろに立つ二本の柱は、カーテンを普段はかけてある鏡だと考えてみいるのも面白い。そのような大きな鏡がシュメールにあったとは思えないが・・・。もっと身近な考えをするなら日本の神社の鳥居か?つまり神の出入りする門である。すると垂れ下がる幕は、鳥の尾の形象化であろうか?あらゆる生命を運ぶ、神の使者が鳥である。

この神がイナンナであることの決め手は、甲骨文字のイナンナ神の形が、やはりこの柱で描かれるからだという。甲骨文字もつまり最初は象形文字から始まったということになる。文字の発明は常に異文化・異民族を受け入れる豊かで鷹揚な平和な国家が築けた証明である。つまり世界最古の都市文明は、当初からそのような体裁を整えたものから突然始まったことになる。しかし、そんなことはおかしいのであり、ちゃんとその前の原始的状態はあったはずで、記録や形象物がないだけのことであろう。それをして超古代文化だとか、オーパーツだとか言い始めるのはだいたいおっちょこちょいな行為である。

考古学にはいろんなやり方・切り口があるのだが、日本のように先史時代の多くの遺跡を土器を中心にして掘る手法と、西欧のように文化・文明・文字・神殿などからまず始める手法とでは、古代への考え方がぜんぜん違ってくる。西欧考古学は、聖書を中心にすえ、そこに書かれた記録と遺物との整合性でものを考える。しかし日本の考古学はあくまでも遺物だけを科学で分析したあとで、そういえば『日本書紀』にはこう書かれているとかが付加される。その付加するのは考古学者よりも歴史学者である。だから「ありえないもの」の発見・・・インディ・ジョーンズのような着想が受け入れられ、また金になるのだ。シュリーマンも最初はずぶの素人からトロイを発見する。あるはずだ、が前にあるとどうしても発掘は恣意的になりやすい。ところがシュリーマンの成功がかえって西欧考古学を発掘というよりも話題性に向かわせた傾向は否めない。


さて、このようにウルクの大杯には、当時の死生観の中心に災害と恵みを司る大地の女神があったことがわかる。そのためによって国家はひとつとなり、ひとつにまとめる王が登場した。だから最初の王はこのネットスカートを履いた祭祀王から始まり、その性格は神の宣託を聞き、政策として市民に(自分に都合のよい内容に潤色して)伝える代弁者=預言者として始まった。そこにはもう卑弥呼のような巫女王は存在しない。つまりその直前の原始信仰の様子は、ここからうかがい知ることはできないのだ。探すならもっと古い、石器や土器から積み上げた考古資料にならねばならない。エジプトもシュメールも、そのように石器時代からこうやって発展したというつなぐ遺物の提示が必要だし、観る側もまた、そういう基本的知識が必要になる。そうでないと、いきなり超文明は登場したような錯覚に陥る。

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欠損部分を復元されたエン王。ネットスカートの男と呼ばれている。




先に大麦は六条大麦であると書いたが、これは『図説メソポタミア文明』で著名な前川和也の説である。ナツメヤシでなく亜麻であるというのも同じく。

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リンネル生地(リネン)を作る亜麻の花



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六条大麦


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ううむ麦はわかるがなあ・・・亜麻かなあ・・・ナツメヤシかな・・・?

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    ナツメヤシ




紀元前2000年前半にシュメールでは多くの文学が書かれたが、そこには麦と亜麻という文章はあっても、麦とナツメヤシという文章構成や定型語はないという。




さて、エンと女神が結婚しているという仮説もある。つまりエンもよその地域の神で、ここの女神と聖婚することで、国家が融合合体する儀式だというわけだろう。王がネットスカートを履いているのと、その帯を小姓が後ろで引っ張っている姿は、確かにそう見ることも可能だと思える。この帯は重要である。中世から現代の西欧式結婚式なら、花嫁が長いウエディング・ベールをひきずって式場に入ってくるのだが、ウルクでは逆に男神が長い帯をひきずっているらしい。

「帯をたらす」は日本では神の預言者=天皇の名前になっている。「息長帯姫」などである。「たらしなかつひこ」もそうだ。「たらす」とは天から恩恵を下ろすになろうか?あるいは天から降りてきたか。するとこのエン王はやはり代弁者・巫覡王ととらえるほうがよいように思える。しかし王にはイナンナ神のような背後の威信財としての杖は描かれない。だからこれは対等な儀式ではないと言える。つまり神同士の結婚ではあるまい。


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イナンナ女神の壷
聖なる生命力を表す魚・鳥・かめに囲まれて立っている。わきの下には鳥のつばさを持ち、なぜかビキニパンツをはいている。

翼があるとは、つまりこの女性は異界のものであり、通常世界の人間ではないということであるし、天空を舞うもの=鳥=祖霊=いのちを持ってくる永遠、再生の神だとなる。それが女性であるのも、命を生むのが母だからであるが、最初から女神の姿かどうかはよくわからない。仏教の仏像にしても、菩薩があとになると妙に女性っぽくなっていった例もある。もちろん日本でそうなったのは光明皇后の姿を写させたからにほかなならないが。つまり日本の仏像女性化のきっかけは政治的なものだ。なにしろ藤原不比等の女帝正統化政策の最高傑作が娘である光明皇后の立后だった。



よく農耕民族は太陽を崇めたという人がいる。イナンナも太陽神だと言う。しかし農耕民族と太陽崇拝に関係を感じた人々が実際にいたのかどうかには疑問がある。太陽、天体、星は多くが船を手繰る海洋民族の崇拝対象だが、彼らがたまたま農耕も行っていたに過ぎないかも知れない。シュメールにも確かに複数太陽を射落とす伝承や絵柄もあるが、アジアではその大元は江南の長江民族の、それも海岸部や、インドシナ半島で多い崇拝である。農耕民族であるなら最も困るのが災害、大雨などの災害神を祭る傾向にある。つまり原始信仰では、ありがたい神よりも災難を引き起こす神のほう・・・つまり日本的に言えば祟り神のほうが重要な祭祀の対象なのである。そうでなければ神に差し出すニエ、生贄の意味がわからなくなる。

エジプトでも太陽神ラーは数々の神々のひとつに過ぎず、それが一神教として重要になったのはアメンホテップ王のときだけである。縄文人がストーンサークルで日時計のようなものを作ったのも暦や太陽崇拝からではなく、墓として祖霊を祭るためだった。ギリシア神話などでも太陽神アポロンは神話でさしたる重要な行動はしておらず、中心は全能の神ゼウス=雷神である。つまり日本で最重要だった神も、天武~女帝時代のアマテラスではなく、災害神スサノヲなのだ。聖武天皇以来、アマテラスも伊勢も朝廷の関心から除外され、日本の朝廷はむしろ外国の仏教を最重要視。それ以前もまた、災害を引き起こす祟り神だった蛇神=大物主が中心であり、大国主のような敗北国家の祖神も、スサノヲ同様、地上を平定した祖神として恐れられた。

これがいわゆる畏怖というものである。
一方、女神も恐れたのは、女性がいきなり豹変する空のような存在だったからで、そういうものがひとつになったり、男女に分けられたりのごちゃまぜを生み出す背景であろう。山ノ神が女性というのも突然怒り出したり泣き出したり、男に理解できない=怖いからだ。だが実害をもたらすのはやはり自然の災害なのである。

面白いのは、生贄に子羊など選ぶようになったことである。一方で聖なるものと大事にし、一方では神への生餌にしてしまう。これも古い中東や西アジアの聖なる動物を転化させたのか、あるいは聖なる生き物だからこそ神には効果があったのか?どっちにしてももっと古くは人間そのものがニエだったのだから、少しはましになっていくのだ。

人柱は江戸時代まで存在した。そしてそれはそのまま神にもなった。
出雲の櫛稲田姫などはもう生贄の代表で、それをスサノヲが助けて結婚して「あしわらのなかつくに」はできたのである。ヤマタノオロチという川の氾濫をふせぐための生贄、人柱が稲田姫なのだ。それを大風スサノヲが追い払い、殺すと、剣が出た。剣とは鉄である。治水・神婚・鉄。この三つを手中にしたから王になったのである。
そのスサノヲもそもそも天上界では災害を引き起こす災害神・祟り神であった。つまり原始信仰の神とは迷惑なものなのである。それが次第に押さえつけることができるようになると、今度は論理的で成文化された、利用価値の高い宗教に切り替わってゆく。それが中世の始まりである。そういう意味で、アマテラス、太陽神というものは原始信仰のシンボル神のひとつに過ぎないのである。天皇家について太陽崇拝で説明する学者は誰もいない。崇神天皇は大物主を祭り、アマテラスを宮中祭祀から伊勢へと追い出していることになっている。この記事は女帝時代正統性の前例前置きである。そのときからアマテラスこそが祟りなす神となる可能性があるので、巫女斎王をつけて鎮護という形式にしようというのだ。それが豊受の正体であろう。


斎王も豊受神も神のニエの係りであり、当初はアマテラスこそが大物主という祟り神=大和における縄文からの蛇神信仰の鎮護者としてあった巫女神なのである。彼女はむしろ地主神に一時期とってかえて置かれた大地母神・中国由来の新参道教神ととらまえるのがよいだろう。

この辺の構図がわかっていない人は歴史は語れません。




ほんとに恐ろしいのは天災だということはこのごろの大地震、大津波、大土石流で実感したはず。しかし神は助けてなどくれません。あなたに勇気を与えるひとつのきっかけとして、あなたの心の奥の磐屋戸に隠れている。ひっぱりだし、光明を見出すのはあなたの気持ち次第。神が進んで出てきたりはしません。

信じるものだけが救われる気持ちがもてるということですなあ。
災害時、本当にあなたを救うのは自衛隊ですし。それを有事の救いの神にしなくてもいいように日本人はがんばるべしだわ。

































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