ホモ・エレクトスは最初の精緻な道具の開発者で、おそらく最初の火の発見者だ。
それは彼らが氷河期をはじめて乗り切った人類だからである。そのために火と道具と毛皮を使った最初の人類とされる。以前はピテカントロプスと呼ばれていた。
だからまた、それゆえに彼らは現生人類の、おそらく直接の先祖だと言われている。
ホモ・エレクトスは新人や旧人以前に、はじめてアフリカを出て世界に拡散した人類である。それゆえに彼らは外見的にバラエティに富んでいた。それはわれわれホモ・サピエンスとよく似ている。環境適合能力を持っていたということだ。
われわれが昔聞いたことがある北京原人も、ジャワ原人も、またドマニシ人も、かつてはテラントロプスと呼ばれた骨格も、今はすべてエレクトスに分類される。ホモ・エルガステルもエレクトスの一亜種に分類されている。
ところが東アジアで発見されるホモ・エレクトスには、「アフリカを出たという痕跡」がない。石器にアフリカのエレクトスや欧州のエレクトスの作っていた特長が見られないのである。
世界各地のホモ・エレクトスを比較したソーンらは、アジアのホモ・エレクトスの骨格にはホモ・サピエンスがエレクトスから進化した痕跡が見られると述べている。
アジア型エレクトスの眉上突起は直線状だが、アフリカ型と欧州型エレクトスの眉上突起は眼窩に沿って湾曲しているという。つまりアフリカ型と欧州型は、マクドナルドのMのような形なのだ。
ホモ・エレクトスが、アフリカから出たのではないとするなら、mt=ミトコンドリア遺伝子DNA分析が出した人類出アフリカ進化説は、そのやり方がまずかったという可能性を導くことになる。つまりエレクトスからホモ・サピエンスが進化したのなら、人類のアフリカ誕生説はくつがえされるのである。
これらは最新の核ゲノムまで含めたヒトゲノム解析で、現在はホモ・エルガステルこそが先祖ではないかとなってきた。またハイデルベルク人やローデシア原人を今の科学者はエレクトスの変種と考えている。また彼らがアフリカを出なかったという説も、ヒトゲノム解析とは一致しないので、否定された。おそらくアフリカを出たあとで彼らは環境に合わせた彼らなりの道具を作っていったのだろう。眉の突起の違いや歯形の違いなども、環境に合わせた結果の獲得した特長だろうと思われる。
ホモ・エレクトスの分類は、もっと変わる可能性がある。すべてをエレクトスに分類したのはいいのかどうか、遺伝子分析が必要だろう。
参考
『アナザー人類興亡史』
Wiki ホモ・エレクトス