某医科大学が女子や四浪受験生を差別し、減点していたというニュースが世間を騒がせている。女性がすぐに結婚で引退するとか、出産で休んでしまい、「生産性が低いから」除外するとはとんでもない話だ。
そういう話を聞くと、いつまでたっても女性進出が進まない日本、学者といえば大半が男性の日本を感じてしまう。もしかすると医科大学に限らぬ話なのではないかと疑ってしまう。
考古学や文系の民俗学の世界でも、女性は少ないようで、それが果たして、女性にもそういう世界への興味の薄さもあるのかも知れないが、歴史的な生活観とか出産などを考えるとき、女性の意見や見方は必要不可欠である。
過去のアカデミズムの権威というと、決まって男性であり、そうなると見落としてきた盲点もかなりあったはずである。
ニュースや番組で知ったことだが、最近は「縄文女子・土偶女子」なる人々が増えたそうで、もちろん全部がちゃんと考古学的、民俗誌的な興味から始めたとは言えないにわかファンの人もいるのだろうが、大勢としてよいことで、女性学者が増えてくれればありがたい話しだし、確かにそういう貴重な発見も報道されるわけである。
その中のひとつに縄文土偶の腹に描かれる「正中線=妊娠線」のことがある。
女性土偶の真ん中に描かれる縦線。
男性はこれをせいぜい食道とか「みづち」とかしか考え付かないが、女性はこれがもしや妊娠時など、急激に皮膚が伸びたことでできる妊娠線ではないかと考える人がいる。元祖土偶女子を自認する響田亜紀子などがそうだ。もちろんその着想の原点には、先人考古学者らの意見があるのだとは思うが。
かつてこのブログでは、こういう写真とか
こういう著作も紹介済みだが・・・
なかなか妊娠線にまで気がつくことはできなかった。
正確には妊娠線と正中線には違いがあるようだ。
はりつけた土偶の上のほうの下腹部、腰の上当たりの炎状の刺青などは、もしかすると妊娠線で、その上のまっすぐ降りてくる線が正中線を、それぞれ表現しているのかとも見える。
もちろん、まだそれでいいのかどうか学者の意見を待たねばならないが、なるほどそう見えることは見える。
筆者などはするとこういうしゃがんだ土偶は、もしや出産できばっている女性か?など妄想をかきたてられたりした。土偶が出産や生死に関わる呪具であることは否めない。
前にも書いたように、土偶には破壊されたものがほとんどで、完全体で出るものは数少なく、しかも、前者が呪術用具遺棄した穴などから十把ひとからげでまとまって出るのに対して、後者は人形かフィギュアのように室内遺跡から出るケースがある。つまり後者は特別な「おもかげ」として夫か子供がわざわざ死んだ母親の生前の姿を写した人形(ひとがた)として、現代の写真のように大切に保管したものかと思えるし、前者のほうが多いのは、それだけ出産での母子の死が多かったのではにかと思うのである。出産死がいかに多かったかは、子供の場合が圧倒的で、古代人~江戸時代人まで、充分な医学と衛生観念のなかった時代の平均寿命が異常に低い18歳だったことでわかる。疫病もあるが、とにかく産まれてすぐ死ぬものが非常に多かったのである。
そうすると、その原因には、迷信と自然分娩出産方法に無知があったからだろう。アフリカ土着民の出産を見たことがあるが、さまざまあって、木にぶら下がったり、まあ無理な姿勢でやる部族もある。座ってやる方法もあったかも知れない。いやもしかすると古代では元気の印だった排便姿勢であった可能性もあるが。
なにしろ古代人の夫が見た妻の「かわいい」姿や「なつかしき思い出の」かっこうはわれわれの想像の中にはない。
土偶にはもうひとつ、これから出産する妻の無事を祈って壊した可能性も捨てがたい。北方系スキタイのように、死んだものがあの世では無事に再生されるようにと、あえて土偶をひっくりかえし、壊した風習もあるが、生まれる前に人形で姿をつくり、破壊しておけば、出産が無事に済むという考え方もあったはずだ。その志向性は、のちに天災が来て人が被害を受けて死ぬ前に、神にささげものをするという生贄行為に引き継がれたと見たいのである。