Quantcast
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1881

「高木神氏族と狗人」/日下部氏再考・装飾古墳編年から

 
Image may be NSFW.
Clik here to view.
イメージ 2
香春岳
右手前から奥へ一の岳・二の岳・三の岳
三の岳には採銅所と豊比売を祀る古宮八幡がある鷹巣の森が見える
一の岳は石灰岩を切り出されて半分以下になっているがこの麓には香春神社
と鏡山・河内王古墳が存在する
秦氏の新羅神である息長帯大姫大目命を祀る。
 
 
九州古史譚2 高木神氏族と狗人
2013-06-05 / 古代妄想

 豊前、田川の香春(かわら)。豊前国風土記によると、昔、新羅の神が海を渡ってこの河原に住み、郷の北に三峰あり、古く、一の峰に唐土に渡っていた神「辛国息長大姫大目命」を祀り、二の峰には天津日大御神の御子の「忍骨命」、三の峰には神武天皇の外祖母、住吉大明神の御母の「豊比命(とよひめ)」を祀っていたという。
 採銅所の鷹巣ノ森と呼ばれる小山に香春神社の元宮とされる「古宮八幡神社」が在る。今はここに豊比命が鎮座する。この宮の元は三の峰の麓、「阿曾隈(あそくま)の社」であり、香春の地主神であるという。
 そして、この宮は宇佐八幡宮の放生会の出発の地とされ、ここで鋳造された銅鏡が八幡神の正躰として宇佐八幡宮に奉納されたという。

 宇佐八幡宮の放生会は、宇佐神の前身とされる香春の神が、宇佐へと移動した記憶を伝承するものという。豊比命は続日本紀に八幡比神であると記され、宇佐の元神とされる。

 豊比命とは神武天皇の外祖母、とあるから、鵜葺草不合命を産んだ豊玉姫のことであろうか。また、豊比命とは「豊の比神」、豊国の地主神。邪馬台国の「台与(とよ)」をも彷彿とさせる。
 その豊比命が何故か「阿曾隈(あそくま)」。阿蘇の神であるという。そして、神紋を阿蘇の鷹羽として、奉祭氏族を日(火)の神祇、日置氏とする。また、香春は高良であるという。神社覈録には高良は加波良(かわら)と訓べしとある。
 
 さても、難解な神祇である。が、この香春には九州の古史が集約されている。
 
 九州北半、遠賀川流域において、英彦山などに纏わる根強い高木神(高皇産霊神、高御産巣日神)信仰があった。天忍穂耳命を祀るとされる英彦山の山頂域が、高木神祭祀の旧地とされ、英彦山神領の48の大行事社が高木神を祀り、英彦山の本来の祭神は高木神であるとされた。

 高良玉垂命を祀る高良山においても、地主神の高木神がもとは山上に在り、本来の祭神であったとされる。
 そして、高木神信仰に拘わり、「鷹」の神祇とよばれるものがある。
 
 洞海湾岸の八幡(やはた)で、鷹羽の神紋を掲げる「鷹見神社」群の存在がある。遠賀川流域では、直方の神奈備が「鷹取山」であり、鷹羽郡を古名とする田川では地主神を弓削太神なる高木神とする。

 香春の地主神は「鷹巣ノ森」の古宮に祀られ、九州の神祇の地、宇佐においても、八幡祖神は「鷹」の姿で駅館川の畔に現れたため、「鷹居社」にその神霊を祀り、宇佐八幡宮の創始譚に繋がる。

 英彦山の開基伝承では、英彦山の神を「鷹」の化身とし、この山を「鷹」の神祇の本地とする。
 英彦山南麓の日田の地名伝承が「日」と「鷹」の神祇、日高(ひたか)の神話であった。高良山においては、古名を「高牟礼(鷹群山)」とするなど、「鷹」の神祇が九州北半を縦断する。

 これら「鷹」に纏わる社は鷹羽の神紋を掲げ、鷹巣や、鷹取など「鷹」地名を散在させる。古く、根源的な信仰。(*1)
 
 英彦山の本来の祭神が高木神であり、英彦山の神が「鷹」の化身であることは「鷹」の神祇が、高木神に由来するということ。もとより、小郡あたりの羽白熊鷲(はしろくまわし)伝承においては、高木神は「鷹」の姿で現れ、横隈の「隼鷹神社」に祀られていた。

 「鷹」とは高木神の「たか」に由来する。高上ゆえに天空高く在って疎薄。そして猛禽ともされた神の異名。

 遠賀川の下流域、鞍手の剣(つるぎ)岳を中心に「剣」の神社群がの存在が在る。この地の「剣」の神祇は、物部氏族の兵伎の祭祀。確かに、この域には物部氏族の痕跡が濃い。

 饒速日命(にぎはやひ)の降臨において供奉したとされる物部二十五部人のうち「二田(ふつた)物部」は鞍手の二田郷(新多)の在、「筑紫贄田(にえた)物部」は鞍手の新北(にきた)郷に在ったとされる。また、鳥見物部が遠賀の鳥見山、横田物部が嘉麻の横田、筑紫聞物部が企救郡の在とも比定される。

 そして、祖神の饒速日命が、鞍手の南域、粥田荘の惣社の天照神社に祀られる。また、北域の岡垣や芦屋あたりに祀られる大倉主神は饒速日の御子、高倉下命(たかくらじ)ともされる。

 また、この域の物部氏族の痕跡は、高木神信仰域と重なり、高木神氏族に纏わる。(*2)
 物部氏族において、飛鳥期の大連、物部守屋は母姓を仮冒して弓削大連を称したという。その「弓削氏族」の存在が遠賀川中流域の田川に在る。後藤寺の春日神社は、氏神として弓削太神、「豊櫛弓削遠祖高魂産霊命」と呼ばれる高木神を祀る。

 弓削氏(ゆげ)は弓を作る弓削部を統率した氏族。また、後藤寺の北、伊方(いかた)の伝承では、里の民は弓に長じて、天皇の軍の先鋒とされたと伝わる。この域は古く、弓に纏わる地。
 
 英彦山の南麓には矢に纏わる「靱編連(ゆぎあみ)」の存在がある。豊後風土記に日田の靱編郷の日下部君等の祖が靱部(ゆきべ)として欽明朝に仕えたとある。「靭」とは矢を入れる容器。靱編連とは靭を作る氏族。また、下流域の浮羽は「的(いくは)」に由来し、ここも靱部とともに矢に拘わる域。

 日田の地名由来は「鷹」の飛来伝承であった。この地も「鷹」の神祇、高木神の信仰域。国造本紀などにある比多(ひた)国造は高木神の5世孫である剣根命(つるぎね)の後ともされる。(*3)
 
 これら高木神域にみえる戦闘集団の痕跡。高木神氏族は、その猛々しさゆえに「鷹」をトーテムとしたのであろうか。
 
 そして「鷹」の神祇に、天忍穂耳命の祭祀が重なる。
 八幡の王子宮や、香春の二ノ岳、添田の岩石山などから英彦山へ「天忍穂耳命」の神霊が連鎖して祀られている。本所の英彦山は、国の曙の地ともされる九州北部域の神奈備。天忍穂耳命を祀ることから日の御子の山、「日子山(ひこさん)」とされる。

 高木神信仰域では皇祖を天孫の「瓊瓊杵尊」ではなく、天忍穂耳命としている。神話での天忍穂耳命と高木神の女(むすめ)、栲幡千千姫命の婚姻に由来するのであろうか。
 神話は天忍穂耳命に纏わる氏族が、高木神由来の民を婚姻をもって帰属させたという事象を投影させたもの。 それは「日」と「鷹」の神祇の重なり。「日」の神とは天照大神。天忍穂耳命は天照大神の御子ゆえに日の御子とされる。(*4)
 
 この「日」と「鷹」の神祇の重なりとは、高良域の御井あたりでの事象の投影であった。
 阿蘇の古い民は「鯰」をトーテムにする。「鯰」の祭祀を残す手野の「国造神社」は阿蘇神社の元宮とされる。ここに、阿蘇祖族の日下部氏族(草部吉見氏族)が奉祭する阿蘇の母神「蒲池比(かまち)」が祀られるという。
 そして、この阿蘇祖族の日下部氏族は「狗人(く、こう)」に纏わるとされる。「狗人」とは、のちの為政者に熊襲(くまそ)として忌避される民。

 また、日下部とは「日」に纏わる祭祀の氏族ともされる。「日(火)」の神祇、阿蘇神社群も「鷹羽」の神紋を掲げ、古くは阿蘇山も「鷹山」と呼ばれていた。
。」(後略)
 
 
(*1)「弓の神祇 田川の弓削大神。」「矢の神祇 日田の靱編連。」「鷹の神祇 八幡の鷹見神社群。」等、参照。
(*2)「剣(つるぎ)の神祇 鞍手の剣神社群。」
(*3)「矢の神祇 日田の靱編連。」参照。
(*4)「日の若宮 遠賀川流域の天忍穗耳命。」参照。
(*5)「日と鷹 高良の日下部氏族。」参照。
(*6)「九州古史譚1 古層の神々。」等、参照。
(*7)「江南の女神 連鎖する九州の比売神信仰。」参照。
http://blog.goo.ne.jp/araki-sennen/e/d1cc201baa508296b5b36664ec6ee4c2
 
 
 


 
筆者はこの資料はさらに科学的検証を必要とした試案であろうと理解している。
 
なんとなれば、
1 九州の円紋や靫紋についての編年では、円紋は南部から北上し、靫紋は北部から南下したという年代観が九州考古学でのおおまかな見方である。
 
2 大分県日田市の靱編部は文献からは確かに日下部首であったが、この氏族は伝承では都からやってくるとされている。
 
3 竺紫(ちくし)物部氏の九州来訪は、『日本書紀』では6世紀の継体大王が筑紫国造・磐井(いわい)の乱で、大伴氏に代わって物部氏が制圧に成功したことで、継体から河内の物部本家・麁鹿火(あらかい)が「筑紫より西はおまえが」統治したということになっている。ということは記紀史観を正しいとする立場からは、九州の物部氏は6世紀以前から九州にいたはずはないとなる。
 
 
記紀史観の時間枠と、装飾古墳の時間枠、ヤマトタケルの熊襲征伐などを勘案すれば、一般的には、日下部氏とは尾張氏の同族である高倉下との血縁関係と、大伴氏のヤマトでの衰弱とともに物部氏に移管された。そして海部氏とも同族化していったのは尾張での海部との合体があったためだったというのが正論となる。
 
装飾古墳の靫など弓矢装飾が、日田からむしろ人吉へ南下していく年代観は動かしがたく、それは靫負日下部こそがヤマトタケルとともにヤマトから田川にやってきて、熊襲を征伐して南下したと観るのが正しいことになってしまう。ヤマトタケルは尾張熱田で草薙剣=尾張軍事部隊を借り受けている。この中に尾張海部や日下部がいておかしくない。
 
ということはここまでの筆者の高木神派生分析は破綻したこととなってしまうのか?
いや、そうとは限るまい。
 
 
続く
 
 
 
 
 
 
  
 
 
  

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1881

Trending Articles