漁業について語ります。
(一部は紙面の容量のつごうで割愛しています。原典にあたってください)
水産物の放射能汚染から身を守るために、消費者が知っておくべきこと
海に放出された放射性物質はどこに向かうのか?
福島原発からは、大量の放射性物質が海洋投棄されました。海洋に排出された放射性物質の中で、量が多いのはヨウ素とセシウムです。これらは水溶性なので、水に溶けて、海流と一緒に移動します。放射性物質の移動パターンは大きく2つに分けられます。
- 外向きの流れに取り込まれ、外洋へと向かいます
- 沿岸流に取り込まれ、沿岸伝いに拡散していきます
1)外向きの海流
放射性物質を含む海水が、外向きの海流に取り込まれると、太平洋の真ん中へと流されていきます。その過程で周りの海水と混ざって、どんどん 薄まっていきます。福島の原子力発電所の海水がどのように移動するかを文科省のJAMSTECがシミュレーションをしています。
発電所前の海水の濃度の実測値を参考に排出された放射能濃度のシナリオを作ります。高濃度汚染水の排出を抑えた4月9日以降、低い値が続いています。
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これらの汚染水がどのように流れていくかをシミュレーションしたのが、次の図です。

5/1には、福島沖にセシウムが広がっています。放射性セシウムの基準値は90Bq/Lですから、灰色と水色の境目の線は、海水中のセシウムの濃度が9.0Bq/Lになります。海産魚は、環境の100倍ぐらい放射性セシウムを濃縮しますから、魚の汚染は900Bq/kgまで進行することになります。魚の暫定基準値は500Bq/kgですから、この値を超えます。海水の汚染が基準値の10%以下であっても、そこに生息する魚から基準値を超える汚染が検出される可能性があります。海水の放射性物質の計測では、検出限界が10Bq/Lぐらいですから、海水から放射性物質が検出されなくても、魚の汚染が暫定基準値を上回る可能性はあります。水産物の安全性を知るには、海水の汚染を計測するだけでなく、魚の汚染を直接確認する必要があります。
現在、福島沖に対流しているセシウムが、今後は沖に流されていきます。JAMSTECは6/15までのシミュレーション結果を公開しています。5/31の時点での予測はこんな感じです。三陸方面と茨城方面の2つの経路があります。この間で、どこを通るかは、現時点では確定していません。幅広い可能性があると言うことです。ヨウ素は半減期が短いので、この時点で検出不可能になります。魚に取り込まれた放射性ヨウ素も減少しますので、ヨウ素のリスクは大幅に減ります。

6/15になると、セシウムが広域に拡散し、薄まっていきます。水色の領域は、0.9-9.0Bq/Lです。濃縮が100倍として、魚の体内の濃度は90-900Bq/kg程度ですから、完全には安心できないのですが、この先の汚染は少ないと思います。新たに汚染が蓄積することよりも、すでに生態系に取り込まれた放射性物質が食物連鎖を通して、移動をしていくプロセスに注意が必要です。

福島周辺海域は、親潮と黒潮のぶつかり方によって、海流の方向が大きく変わります。シミュレーションの予測の精度は高いとは言えません。5/1以降の結果は、目安程度と考えて下さい。福島と隣接する県が汚染水の通り道となる可能性があります。福島、宮城、茨城の周辺海域は、しばらくは注意が必要です。
海域と安全性に関する考察
福島周辺の冷たい水は黒潮の温かい水と混ざりませんので、黒潮が大きく離岸しない限り、犬吠崎よりも南に汚染水が進入するのは難しいと思われます。外向きの流れに取り込まれた放射性物質は、親潮にぶつかって南下した後、黒潮にぶつかって太平洋の真ん中に押し出されます。下の図は、文科省JAMSTECの予測図の一つです。図のオレンジの点線の上が親潮系、下が黒潮系の海水なのですが、汚染水が黒潮系の流れに進入できず横に流されていくのがわかります。南下してくる汚染水に対して、黒潮が壁のように立ちはだかっているのです。点線より上の親潮系は、海流次第で、汚染水の通り道になり得ます。一方、黒潮系の水が汚染水を跳ね返します。ということで、点線の上と下とで、汚染リスクが大きく違うのです。
親潮系(茨城以北)→要注意?
- 汚染水の通り道になる可能性がある
- 暫定基準値を上回る魚(いかなご)が発見されている→食物連鎖の懸念
黒潮系(千葉以南)→しばらく安心か?
- 汚染水の通り道になる可能性が低い
- 暫定基準値を上回る魚が発見されていない
2)沿岸流 (沿岸の局所的汚染)
放射性物質を含む海水の一部は、外側の流れに乗らずに、沿岸に滞留します。ゆっくりと希釈されながら、沿岸を漂います。大気から陸上に落ちた放射性物質が、雨に流されて、河川から海へ流れ出してきます。原発近傍の沿岸地域では、放射性物質が海底の砂や、海草類に取り込まれて、汚染が長期化する可能性があります。
福島原発周辺の海底土の汚染について
5/3に、福島原発から10km北の小高区沖合い3km地点の海底土の汚染が報告されました。セシウム137が1400Bq/Kgですから、すでにセラフィールドの1980年代の値に匹敵します。今後は、河川を通じて、陸上に落ちたセシウムが沿岸域に流出してくるので、汚染の長期化が懸念されます。また、現在は、ヨウ素とセシウムのみ計測されています。プルトニウム、アメリシウム、ストロンチウムなど他の核種の調査が必要です。
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http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110503m.pdf
放射性物質の核種について
放射性物質には、ヨウ素やセシウムなど、様々な種類があります。それぞれ、挙動が違います。
生態系における放射性物質の濃縮について
海洋に放出された放射性物質は、プランクトンや魚に取り込まれます。その後、放射性物質は食物連鎖を通じて、海洋生態系を循環します。生物の種類によって、放射性物質の取り込みやすさが異なります。それぞれの生物が、放射性物質を体内に蓄積するかは、濃縮係数というパラメータで表現されます。
濃縮係数=生物の体内の放射性物質の濃度/環境の海水中の濃度
イカタコ | 9 |
植物プランクトン | 20 |
動物プランクトン | 40 |
藻類 | 50 |
エビカニ | 50 |
貝類 | 60 |
魚 | 100 |
イルカ | 300 |
海獣(トド) | 400 |
食物連鎖を通じた放射性セシウムの移動(捕食者への時間遅れの汚染蓄積)
チェルノブイリ事故で汚染されたキエフの貯水湖では、餌となる小型魚(上)のセシウムの値は事故の後すぐに上がったのですが、捕食魚(下)のセシウムの値は翌年になって跳ね上がりました。食物連鎖を通じて、上位捕食者に時間遅れで放射性物質が伝わったのです。Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts
チェルノブイリの事故後で、日本近海の表層海水の汚染のピークは1月後、スズキの汚染のピークは半年後、マダラの汚染のピークは9ヶ月後でした。(海生研ニュース No.95 p7より引用)。

下の図は茨城のヒラメから検出されたセシウム(Bq/kg)です。生態系に取り込まれたセシウムが徐々にヒラメに蓄積されつつあるようです。チェルノブイリの時と同じことがおこるなら、今後も高次捕食者に汚染が蓄積されていき、半年~1年後にピークになるでしょう。継続的に汚染状況を確認し、汚染がどこまで進むのかを見極める必要があります。

汚染からの回復
魚が放射性セシウムで汚染されたからといって、その魚を未来永劫食べられなくなるわけではありません。チェルノブイリの湖でも、被食魚は事故後2年、捕食魚は事故7年後で、日本の暫定基準値(500Bq/Kg)よりも低い値まで汚染が減少しました。海産魚は、淡水魚よりも、放射性物質の減少が早いと考えられています。その理由は、湖は閉鎖系なので、水中の放射性物質の濃度が下がりづらいことと、淡水魚は浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを体内に取り込むのに対して、海産魚は体内の浸透圧調節のために、カリウムやセシウムなどのイオンを積極的に排出するからです。チェルノブイリの事故で、日本近海の海産魚の放射性セシウムの濃度が上昇しました。事故以前の濃度レベルに回復するのに要した時間は、スズキで1.7年,マダラでは2.5年でした(海生研ニュース No.95)。
海産魚の場合、水槽実験では、体内の放射性セシウムの濃度が半分に減るのに50日かかることが解っています。たとえば、基準値の倍のレベルまで汚染された場合には、(餌がクリーンであれば)基準値まで下がるには50日程度かかるいうことです。福島のイカナゴからは、14000ベクレルという高濃度のセシウム汚染が観察されています。基準値の28倍ですから、半減期が50日として計算をすると、1年せずに暫定基準値よりも下がることになります。詳しくは、こちらの説明をご覧ください。排泄の速度は魚の種や、代謝コンディション、餌の汚染度合いなど、様々なファクターが聞いてきますから、あくまで目安程度です。
水産庁の公式見解では、「たとえ放射性セシウムが魚の体内に入っても蓄積しません」となっていますが、楽観的過ぎると思います。放射性セシウムは魚を含む生物に蓄積されて、数ヶ月から数年のオーダーで生態系に残ることが、野外調査および水槽実験から知られています。くれぐれもご注意ください。
ポイント
- 海水の汚染の流出を食い止めるのが重要→安全性の議論ができるのは、汚染の進行が止まってから
- 魚は環境の100倍の濃度にセシウムを濃縮する→海水からセシウムが不検出でも安心できない
- 放射性物質は、食物連鎖を通して循環する→食物連鎖を通じた移動に注意
- 海水魚に蓄積されたセシウムが半分になるのに50日かかる→数ヶ月~数年オーダーで汚染は残る
- 汚染の度合いから、浄化に必要な時間の予測は可能
ぼくの素人考え
海産物はすでに全地球的に危険が建前であると思うが、放射物質は、すでに子孫を作らない世代は少々取り込んでもすぐには影響もなく、安全だとは言えずとも食べても大丈夫だろう。しかしそれ以下の世代には、海産物が世代を重ねるごとにどんどん危険量は増してゆくから食べないにこしたことはないだろう。
ということは、海洋食料を産業とする業態にとって、今後の将来性は風前のともし火であるとしか言えなくなる。
ということは早急な税率引き上げが必要であることも否めない。
もしこのまま原発の放射性物質流出を日本が止められないままでいると、世界中が日本をダメ国家として糾弾するだろうことは目に見えている。
遠洋も近海も、日本海も、大西洋も、すべてが海流輪廻の仕組みから切り離された地域であるとはいえない。
そういった意味で、日本は痛恨の過失を犯し、世界に冠たる地球環境破壊者と、未来に世界の教科書に書かれる運命と責任を背負ってしまったことになる。
これは日本の未来にとって致命的に暗澹たる未来をもたらす、先の戦争以上の「最悪の犯罪」を・・・・
あとはもう言葉にならない。
未来の若者に幸あれ。
ざんげではすまない罪を犯したことを許せ。