◆白髪水(しらが・みず)
【洪水】より
…洪水神話水害治水【高橋 裕】
【日本の洪水伝説】
「農業技術の未発達な時代には,洪水とそれにともなう泥海はこの世の終末と意識された。東北地方ではかつてあった最大の洪水を〈白髪水〉と呼び,その直前に白髪の老人が予告したり出水のおりに水の上を下ってくると語られた。木曾川下流域では大増水の際,〈やろかぁー,やろかぁー〉という叫びが聞こえ,これに応答すると水が浸入するという〈やろか水〉の伝説が語られている。」
『世界大百科事典』平凡社
【洪水】より
…洪水神話水害治水【高橋 裕】
【日本の洪水伝説】
「農業技術の未発達な時代には,洪水とそれにともなう泥海はこの世の終末と意識された。東北地方ではかつてあった最大の洪水を〈白髪水〉と呼び,その直前に白髪の老人が予告したり出水のおりに水の上を下ってくると語られた。木曾川下流域では大増水の際,〈やろかぁー,やろかぁー〉という叫びが聞こえ,これに応答すると水が浸入するという〈やろか水〉の伝説が語られている。」
『世界大百科事典』平凡社
「東北地方の人たちは、これまで言うとあるいは思い出されるかも知れませぬが、秋田の雄物川でも、津軽の岩木川でも、岩手の北上川でも、会津の阿賀川でも、またその他のいい佐奈川でも、昔のいちばん大きかった洪水を、たいていは白髪水、または白髭水と記憶しているのであります。」
柳田國男『女性と民間伝承』
柳田國男『女性と民間伝承』
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以上の説明をあわせ考えると、どうやら東北地方では洪水や湧き水を「白髪」に例える習慣があったようだ。この白髪は、老婆の白髪や、地域によっては翁の白髭(しらひげ)のような水が激しく動くときの白波・飛沫のことであるらしい。地域の巫覡(ふげき)の多くが老婆や老人を選んでいた風習の名残ではないかと柳田は想定している。
このことはすでに江戸時代の旅行作家で博物学者の菅江真澄も『栖家能山(すみかのやま)』寛政八年五月一日に、
「太郎次郎が館(やかた)とて そのはらからやここに栖家したりけん 柵は白髪水というに押し流されて そのあたりの人もふる館という所にうつりて その村のみいまもなおあり」
という記録がある。
白髪の老婆にたとえた洪水なので、その地名やいわれのある場所では、だいたい山姥(やまんば)の目撃譚も多く、どうも山姥と洪水には連想のつながりがあったようだ。
有名な話は『遠野物語二八話』の注に記録がある。
「北上川の中古(古代史の一時期)の大洪水に白髪水というがあり、白髪の姥を欺(あざむ)き、餅に似たる焼石(やけいし)を食わせし祟りなり」
二十八話の話自体も、この注釈にまずは等しいもので、
「二八 始めて早池峯に山路(やまみち)をつけたるは、附馬牛村の何某という猟師にて、時は遠野の南部家入部(にゅうぶ)の後のことなり。その頃までは土地の者一人としてこの山には入りたる者なかりしと。この猟師半分ばかり道を開きて、山の半腹に仮小屋(かりごや)を作りておりしころ、或(あ)る日炉(ろ)の上に餅(もち)をならべ焼きながら食いおりしに、小屋の外を通る者ありて頻(しきり)に中を窺(うかが)うさまなり。よく見れば大なる坊主なり。やがて小屋の中に入り来たり、さも珍しげに餅の焼くるを見てありしが、ついにこらえ兼(か)ねて手をさし延べて取りて食う。猟師も恐ろしければ自らもまた取りて与えしに、嬉(うれ)しげになお食いたり。餅皆(みな)になりたれば帰りぬ。次の日もまた来るならんと思い、餅によく似たる白き石を二つ三つ、餅にまじえて炉の上に載せ置きしに、焼けて火のようになれり。案のごとくその坊主きょうもきて、餅を取りて食うこと昨日のごとし。餅尽(つ)きてのちその白石をも同じように口に入れたりしが、大いに驚きて小屋を飛び出し姿見えずなれり。のちに谷底にてこの坊主の死してあるを見たりといえり。」
というものである。
こちらは餅を食いに来るのは山姥ではなくって、「大なる坊主」になっているが、話の筋はまったく同じで、結局はそれが祟って大水になったことになっている。本編の「大なる坊主」とはいわゆる山の神「だいだら坊」かと思われるが、別名はデイダラボッチとかダイダラボッチ、大多、大太、デーダラ坊などとさまざまで、よく耳目に知られたところでは宮崎駿の「もののけ姫」に登場している。この妖怪は山をひとまたぎにするのだが、明治ゴロの東京のど真ん中でも、ひとまたぎして消えた話もある。いずれ別記することと思う。
注にある山姥の話は柳田の『山姥と石餅』として記録がある。
この類型は長崎県や和歌山県など全国に広範囲にあるのだが、やはりいずれも古代から海人がいた地位にリンクするともみえる。やはり28話と同じ早池峰山には、神仏習合の時代に早池峰の妙泉寺の住職が餅を焼いていると山姥が現れ、餅を全部食べてしまう。和尚はなんとか仕返しがしたいので、今度は餅によく似た石を焼いて食わせ、酒といつわり油をいれておきこれをまんまと飲ませたところ、山姥は苦しみながら山に逃げ込んだが、その後三日魅晩暴風雨が続き、大津波と大洪水になって寺を押し流してしまった。大洪水の直前に津波の波頭の上に白髪の翁が立って歌を歌いながら流されていった。それで人々はこの洪水を白髪水と呼び始めた、という。
この類型は長崎県や和歌山県など全国に広範囲にあるのだが、やはりいずれも古代から海人がいた地位にリンクするともみえる。やはり28話と同じ早池峰山には、神仏習合の時代に早池峰の妙泉寺の住職が餅を焼いていると山姥が現れ、餅を全部食べてしまう。和尚はなんとか仕返しがしたいので、今度は餅によく似た石を焼いて食わせ、酒といつわり油をいれておきこれをまんまと飲ませたところ、山姥は苦しみながら山に逃げ込んだが、その後三日魅晩暴風雨が続き、大津波と大洪水になって寺を押し流してしまった。大洪水の直前に津波の波頭の上に白髪の翁が立って歌を歌いながら流されていった。それで人々はこの洪水を白髪水と呼び始めた、という。
話の類型としては洪水ではないが、淵に住む蛇がおせんという女に化けて出る話、その女が洪水のときに波頭に立ち、流されながら蛇体に戻った話などもあって、それからその洪水や淵を「おせんが淵」とか「蛇」の名が洪水につけられていたりする。
また長野の安曇野、松元平(まつもとだいら)など、かつて湖水だった盆地では、道祖神もよく置かれており、これも地震や洪水に関連していることが多い。さらに九州の耶馬渓では道祖神はよく大水に流されて下流に流れ着き、集めて祀った話があり、道祖神がもともとあった地域は上流のほうで、そこは今、山移(やまうつり)などといわれており、かつて大地震や洪水で山が崩れたあとかとも思える。
水を白髪に例える地方は東北でも太平洋側に多く、不思議なことに同じ太平洋側の高知県本山町奥白髪などに点在する。
◆白髪山/白髪自然水
「白髪山は石鎚連峰の一支峰で標高1470m、藩政時代にはこの地を支配した野中兼山が、樹木の伐採を禁じたので手つかずの自然が残っている。頂上は蛇紋岩の露出する岩場と数千本におよぶ天然ヒノキやコメツガなどの白骨林が広がり、特有の景観を描いている。またシャクナゲの群生や紅葉の美しさでも知られ、高山植物も多く、訪れる人は高地の自然を満喫することができる。頂上からの展望も雄大で、遠くには四国山地の連山、眼下には雲海がうねっている。
「白髪山は石鎚連峰の一支峰で標高1470m、藩政時代にはこの地を支配した野中兼山が、樹木の伐採を禁じたので手つかずの自然が残っている。頂上は蛇紋岩の露出する岩場と数千本におよぶ天然ヒノキやコメツガなどの白骨林が広がり、特有の景観を描いている。またシャクナゲの群生や紅葉の美しさでも知られ、高山植物も多く、訪れる人は高地の自然を満喫することができる。頂上からの展望も雄大で、遠くには四国山地の連山、眼下には雲海がうねっている。
このような自然の山間に湧き出す清水を集め遠く導入し、訪れる登山客の渇きを癒すよう、登山口に給水所が設けられている。誰が言うともなく「白髪自然水」の名が付けられた。神秘な自然の山岳のイメージと、白髪の名に由来する長寿と健康のイメージから、水筒に詰め持ち帰る登山者も多く、水目当てという人も増えている。 」
http://www3.ocn.ne.jp/~t.koba/tosa14.htm
東北地方は鎌倉時代頃まで「生蛮地(せいばんち)」と言われてきた蝦夷やアイヌのいた地域であり、彼らがすべて俘囚として西日本へ移住させられたわけではなく、縄文時代から住み着いてきた蝦夷たちのほとんどは、依然としてここに住まい、生活してきた。その証拠が地名のアイヌ由来が多いことである(半分ほど残っている)。同時に海岸部には九州から北上した南方縄文海人も住んでいたわけで、はるか南の太平洋南岸の土佐などに白髪地名が残存し、やはり洪水話があるのも、地震や津波が東南海でプレートがつながっていて、地震が多かったことと関連して、言い伝えが行き来した結果であろう。
Kawakatu’s HP マジカルミステリーコレクション渡来と海人http://www.oct-net.ne.jp/~hatahata/
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