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Channel: 民族学伝承ひろいあげ辞典
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ヒロロのハバキ

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ヒロロとはミヤマカンスゲ(深山寒菅)の北陸・東北などでの呼び名。
カンスゲ(学名:Carex morrowii)は菅笠や蓑(みの・み)やハバキなどの素材になるカヤツリグサ科の植物。
 
ここで扱うのはこの人のことではないのであしからず。
 
 
 
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ハバキ・雪をふせぐ脛当て。日本刀の刀身と握り部分の間をつなぐ部品もハバキと言うが、無関係だろう。
 
 
 
 
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→アラハバキ
アラハバキ(荒覇吐、荒吐、荒脛巾)は、日本の民間信仰の神の1柱であるが、来訪神・客人(まれびと)神であるから、きっと旅姿で蓑笠・ハバキをはいてやってくるのだろう。東北以外にもこの神はたくさん祭られており、そこでの扱いは来訪神である。これを蝦夷が西日本へ連行されてからの主客逆転とする説は多く、そもそもは東北でこの神は、東北地方のスサノヲのような災害神だったのかも知れない。いずれにせよそう考えるなら、アラハバキとは自然神、災害神でよかろうか。
 
 
 
 
 
「あれに見えるは茶摘じゃないか 茜たすきに菅の笠」
 
 
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静岡浅間神社、御園茶摘式
 
 
 
菅笠と蓑は往古からの日本の雨合羽、日除け、雪除けであるが、同時に来訪神の着る「隠れ蓑」でもあって、これを祭で着ているものは神という暗黙の了解がある。
また祭で主として女性が菅笠を斜に被って舞う様式が全国にあるが、古くから女性は農耕の女神とされてきた。これは太古の中国で大地母神(だいちぼ)が女神であったという民間に起原した西王母からの観念に、顔を見えなくする菅笠が日本で合わさったスタイルだろう。いずれもカンスゲなどで編まれる。
 
菅の中でもカンスゲは伊豆八丈島の固有種が広まった亜種が多い。すると蓑笠の素材をカンスゲにする風習はそもそも伊豆大島や伊豆で始まったかと?それならば来訪神という南島にも多いバナナ等の葉で編んだ衣装が、日本の伊豆諸島を経由して北上した結果かとも受け取れる。
 
なぜミヤマカンスゲをヒロロと呼んだのかはわからない。乾燥させたヒロロをなうときに、しゅっとか、ひょっ とか、そういう風を切る音がするからか?ひらひらするからか?
 
 
以前も書いたことだが、隠れ蓑とは、神を見る側の人間にとって見えなくなる蓑なのであって、それを着る神の側からすれば自分には見えているわけで、むしろ物理的に見えなくする道具なのではなく、自分が神であることを知らせるための衣服であろう。すると祭や茶摘で、菅笠をかぶり顔を見えなくする女性達は、神になっているということになる。要するに神秘性・神性を「見せる」ためのひとつの表現である。踊ること、作業をもくもくとすること=憑依。
 
 
民話「笠地蔵」では、雪から守るために六地蔵に笠をかぶせてやると、正月の食材が生じたとなっており、これも地蔵=神という民間の神仏混交信仰であろう。
 
六地蔵とは、六道を守護する仏教のいわば塞の神であり、そこから先はあの世という結界である。菅で編んだ巨大な塞の神などと同じ「魔をさえぎる神」だ。ダイダラボッチでもあろう。地蔵信仰は江戸期にブームとなった。つまり民間信仰と仏教がないまぜになって定着した時期だったわけだ。
 
 
 
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民間信仰は最初、道教や神仙思想に始まる。それを広めるのは地方の仏教の僧侶や修験者たちであり、やがて神仏混交も定着。そもそも中国から来るときにすでに百済で仏教と民間信仰はないまぜになっていただろうし、もっと前に、インドから中国へ入るときにもかなりいい加減なものが南部に入ってしまっていたので、教義佛教=大乗を広めるために三蔵法師などはインドまで行った。それはちょうど空海や最澄が渡海してまで本密をとりにいくのと同じことである。先に民間が取り込んだのである。
 
さてではなぜ萱の葉っぱなのかと言えば、まずは青い色であろう。南方のバナナの葉も、正月のウラジロやユズリハも同じく。常緑樹の緑色は世界各地で共通の生命の象徴。同時に死の色でもあったのは、再生願望からである。
 
 
今回もまた、ひとつの観念に両面性があることを書くことになってしまった。
 
 
弘前にはヒロロというショッピングモールがあるそうな。ほろろ?
 
 
 
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