この疑問の解明は簡単である。
高皇産霊神(たかみむすひのかみ)は記紀造化三神(ぞうかさんじん)の一柱だが、政治的には藤原不比等その人を意味している。
1持統=アマテラスは飛鳥蘇我王朝=スサノオを滅ぼし、長子草壁=アメノオシホミミを新しい大王=天皇にしようとする。
2しかし草壁は渡来大王天武の息子。不比等は天智直系を尊重して、草壁を抹殺して、孫の軽を後継者にする。
これは神話のアメノオシホミミが辞退してニニギが降臨するに等しい。
ゆえに不比等は『日本書紀』の神話ではタカミムスビである。影でアマテラスを動かし、天孫である天皇を決めると、アマテラスを前面に押し出して、みずからはフィクサーになる。タカミムスヒも静かに消えたとなっているに同じ。
そして元明女帝の頃に不比等が死ぬと、藤原氏には疫病による滅亡寸前の状況が起こって、政権が橘氏へと移行する。そのためにタカミムスヒは影響力のない高木信仰という道教古来の神樹思想でオブラートされた。
アマテラス信仰は持統が死ぬと宮中で立ち消えになり、アマテラスは巫女の監視下で僻遠の伊勢へ押し込まれてしまった。それは藤原不比等の影響力が消えたからである。その後、明治時代まで、アマテラスは忘れ去られていた。わずかに江戸の町人の中でこれを旅行の理由にしているが、歴代幕府に一切、アマテラスを特別扱いした様子もなく、天皇ですら参拝はない。わずかに親王らが代役として参るのみである。しかし明治の軍部がこれを皇国史観の題材に最適だと考え、浮上した。そのときからアマテラスは「天照「皇太」神宮」となる。「皇太」とは持統つまり皇太后である。以後、今に至る。