西欧の紋章は象形文字の名残から始まったのだという。
ヨーロッパで最初に出版物に記録掲載された象形文字はフランチェスコ・コロンナ(Francesco Colonna 15世紀イタリアベネチアの修道士)が作品中に挿入した絵図だと言われている。
フランソワ・ラブレー作『ガルガンチュワ物語』にそのことが記録されている。
「古代エジプトの賢者がたが、そのいわゆる象形文字というものでものを書かれた際には、はるかに違ったやりかたをしたようだ。象形文字と申すものは、画としてそれに表された物象の特性を会得しておらぬ者には検討もつくまいが、会得している者はおのおのその意味を解するというていのものであったのだ。この象形絵図に関しては、オルス・アポロンがギリシア語でギリシア語で二巻の書を著しているし、ポリフィルスが『狂恋夢(ソンジュ・ダムール)』の中でさらに詳しく述べている。フランスでは、その名残が「提督の紋所」に見えるが、これはオクタウィアヌス・アウグストゥスが最初に用いたものである」(訳・渡辺一夫 1972)
フランチェスコ・コロンナによって15世紀に書かれたと推定されていて、実在する書物『Hypnerotomachia Poliphili(ヒュプネロトマキア・ポリフィリ)』(ポリフィロスの夢幻世界)は「コロンナの暗号書」とか「フランチェスコの暗号」(現代ファンタジー推理小説の題名。こっちはもうひとつ面白くない)とか呼ばれて、西欧ではなかなか人気があるオリエント関連の書物である。
澁澤龍彦は早くもその著者『胡桃の中の世界』所収の「ポリフィルス狂恋夢」の中でこの異形の、世界最長の書物を「夢の中でさまよいながら、壮麗な古代風の庭園や神殿や、さまざまな建造物や、神話の怪獣や水精や、また愛神ウェヌスの盛大な祝祭や儀式などに次々に遭遇する。あらゆるエピソード、あらゆる寓意が、古代風の意味を帯びている」「異教的な官能を謳歌した物語」と表現している。
「『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』は1499年12月、アルドゥス・マヌティウスによってヴェネツィアで印刷された。作者は匿名だが、オリジナルの各章の最初にある、複雑に装飾された文字は折句になっていて、通して読むとイタリア語の「POLIAM FRATER FRANCISCVS COLVMNA PERAMAVIT(修道士フランチェスコ・コロンナは心からポーリアを愛する)」と読むことができ、そこから修道士のフランチェスコ・コロンナが作者だと解釈されている。しかし、研究者の中には、レオン・バッティスタ・アルベルティ、あるいはロレンツォ・デ・メディチを作者とする者もいる。ごく最近では、印刷者のアルドゥス・マヌティウス、あるいは同名異人のフランチェスコ・コロンナとする意見も現れた。挿絵画家についてはさらにはっきりせず、出版当時にはベネデット・ボルドンと考えられていた。」
作者名がどれであれ、コロンナはエジプトなどを訪問したのか、実に多くのヒエログリフや謎の暗号を採集しており、数々の学者や文学者がその紋章を引用しているので、おそらく欧州貴族の紋章のヒントはこうした象形文字の組合せから考案され、欧州にも古代には存在していた象形文字を組み合わせて作られていったのだろうといわれている(矢島文夫『オリエントの夢文化 ――夢判断と夢神話』2007)。
実際、コロンナのこの作品中に挿入された象形文字は上の画像のようなものだったのだが、この一部分(碇と海豚)がそっくりそのままベネチアの大出版家で大富豪でったアウグス・マヌティウスの社紋になっている。
このイカリにイルカの模様は、あちらでは「提督の紋章」と呼ばれており、おそらく最古級の貴族紋章だと言える。なぜそう呼ばれるかと言えばその「提督」とは初代ローマ皇帝オクタウィアヌス・アウグストゥス(ユリウス・カエサル=シーザー)が用いたからである。このマークのイカリは泰然自若とした威厳と海の支配者を示し、撒きついたイルカは敏捷に行動する征服者を表しており、渡辺一夫はこれを一言で「悠々として急げ ラテン語Festina lente(フェスティーナ・レンテ=ゆっくりと急ぐ日本語の格言で言う、急がば回れ)」であるとしている。
コロンナ家はイタリアの大貴族一家であるので、フランチェスコが一修道士だったとは考えられず大出版家マヌティヌスが匿名で書いた作品だったが、おそらくコロンナ自身、あるいはマヌティウス自身の身分を隠した名前ではあるまいかと思うが、それよりも彼が用いた中世欧州最古の紋章がエジプトとも深く関わったカエサル(クレオパトラ女王との愛憎)にも使われたということは、やはりエジプト象形文字からの古代からのアイデアであろうと思われて興味深い。
「悠々として急げ」は日本の作家・開高健(かいこう・たけし)の作品にも使われている言葉である。
「急がば回れ」と訳すよりもやはりこっちのほうが威風堂々としたイメージが出てよろしかろう。
分厚い、世界最長の小説であるが、一度は読んでみたい本のひとつである。
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